「全然解らん・・・」

私は トリップの事、貿易商の娘のふりをしている事を一通り説明した
が、久々知君のキャパシティは限界のようだ
確かに あっさりと理解する人間の方が異常ではあるが


「えーと…さんはこの時代の人間ではなくて」
「そうそう」
「時間を自由に旅行が出来て……これが俺にはよく解らないけど」
「そういう事です」
「この学園が気になったから 消えた娘とやらに成り済ましてやって来て…今に至る…?」
「流石上級生ね!流れはそんな感じ」

薄暗い倉庫の中で 久々知君が溜息を吐いた


「明朝に行われる五年生の実技試験の内容を 先に知る…なんて事は出来るのか?」
「理論的にはね」
「…教えてくれた内容が真実なら信じるよ、序でに君が不審者だって事も言わないでおく」
「不審者!?」
「“貿易商の娘”じゃないんだから 不審者だろう?」

確かに 彼の言う通りだ

「…少しだけ 此処で待ってて」


私は彼に完全に疑われている
これでは協力どころの話ではない

実技試験とやらの内容を 完璧に教えてやろうじゃないの








*  *  *








紺色の忍装束を身に纏った生徒達が 校庭に集合している


「今回の試験は 誰にも発見される事無く、素早く密書を手に入れる事だ」

先生らしき人物が 生徒達にそう告げた
私は先生の言葉を一言一句聞きもらすまいと 木陰に隠れて必死にメモをとる


「裏々山に屋敷があるな、あの屋敷の何処かに隠されている」

現代の筆記試験より 随分と面倒臭い試験をしているのだな、と 感心しながら更にメモをとる


「・・・・誰だ 其処に居るのは」

だれだ そこに、までメモをとった時 私自身がその科白を言われているという事に気付いた


「こ…これは思わしくない事態だ 逃げねば…」
「何奴だ!姿を見せろ!」
「ひぇぇ…!」


飛んできた手裏剣をなんとか避けつつ 私は 久々知君と倉庫に居た時間へと戻った
明朝 久々知君だけは この騒動の引き金となった“木陰の奴”の正体がすぐに分かる事であろう…






03 strange








その 不思議な女の名前はという

背丈は くの一教室の女子達よりも一回り大きいように感じる
恐らく山田先生の息子・利吉さんと同い年くらいかと 個人的には推測している

不思議な着物を身に纏っていたのは 南蛮貿易商の娘であるから
・・・そう思っていた、俺だけではなく 全員が

だが それは未来の服だというのだ
その事実を知っているのは どうやら俺だけらしい

…事実なのかも よく解らないが


さんは “貿易商の娘”だと偽り 此処に居る
それが背徳的だと思っているから 事実を俺に話したのであろう
否、きっと 俺ではなくてもよかったんだ
別の誰かが 彼女の現れる瞬間を目撃していたら きっと彼女はその人物に事実を話した筈だ

俺は 保健委員会も吃驚の不運に見舞われた訳だ

きっと彼女は もしもの時 事実を知っている俺を頼るんだ
利用されているんだ、所詮


だから俺も彼女を利用してみた
そしたら 本当に実技試験の内容を俺に伝えてきたんだ

…試験内容は その通りであった


今朝 試験内容が発表された時 木陰から明らかに変な気配がしていた
先生が手裏剣を投げた後 あんなに目立っていた気配がぱたり、と消えた

昨日 俺の目の前で 少しの時間彼女は姿を消した
あの間に 彼女は“今朝”に来て 木陰に居たという訳か


理解に苦しむ事には変わりないが この結果…信じざるをえない





さん」

花壇に水をやる彼女に 声を掛けた


「おっ久々知君 もう試験終わったの?」
「午前のうちに」
「私の言った内容…合ってた?」

頷くと 彼女は安心したのか 顔を綻ばせた



「この学園が気になったから来たって言いましたけど 実際…どうですか?」

気になっていた事を 彼女に訊ねた
彼女は笑顔で こう答えた

「此処は…なんだか運命を感じる…気がする、かな?」




さんは 本当に不思議な人だ


利用する為に彼女は俺と こうして会話をしているのかもしれない
それなのに 彼女の事をもう少し知りたくなるのは何故だろう


彼女に関しては 不思議な事が多すぎて

「・・・全然解らん」







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(09.7.7 未来人ってなんだろう)